弁護士法人はるか|水戸法律事務所

高次脳機能障害損害賠償請求事例

 

 

B氏の損害賠償額について,以下のとおり請求いたします。

 

第1 傷害分

 1 治療費(10,470,186円

   治療期間 257日(H28.10.9~H29.6.22),うち入院日数 257日

    合計   10,470,186円

 

 

   2 看護料及び紹介手数料(1,339,042円)

         甲看護婦家政婦紹介所の家政婦が付添看護した。

         看護期間  113日(H28.2.13~H28.2.22,H28.3.11~H28.6.22)

         看護料   1,194,975円(日額10,575円×113日)

         紹介手数料   144,067円

         合計    1,339,042円

 

    3 入院雑費(385,500円)

          赤い本 日額1,500円×257日=385,500円

 

    4 交通費(320,240円)

         ①長男Y  183,600円

         ②二男X   66,420円

         ③長女T   70,220円

         合計    320,240円

 

    5 入院付添費(929,500円)

          付添期間 143日

          赤い本 日額6,500円×143日=929,500円

          ※ 入院付添費について

被害者は,一時は生死も危ぶまれる状態で何とか一命を取り留めた後も,せん妄が発症してベッドで暴れたり,その他,妄想,幻視などにより「○○に会いだから今から○○宅に行く」,「○○さんにお金を貸しているので取りに行く」等と言って突然ベッドから降りようとするためベッドから転倒する危険があり,病室には家政婦しかいないのに「○○が部屋のあそこにいる」と言ったり,病室のガラス窓を見て「○○が映っている」と言ったりなどの状態が入院期間中続き,家政婦の付添看護だけでは精神状態が安定しなかったため,長男夫婦,二男夫婦,長女が交代で上記の期間付添看護をし,被害者への話し掛けや被害者の話すことを根気よく聞くなど被害者を受容して愛情を持って接したことで少しずつ精神的に安定してきたことから,平成28年3月11日には家政婦1人だけでも付添看護がどうにか出来る状態となった。

 

     6 休業損害(2,543,529円)

           3,612,500円÷365日×257日=2,697,986円

           ※ 休業損害について

                 被害者は,本件事故以前,株式会社Gの監査役に就いており,年間6,000,000円の役                   員報酬を得ていた。

                 被害者の役員報酬は,労働提供の対価としての実質をすべて有するものではないが,監査業務                   や株主総会・役員会への出席など実際に稼働していることから,監査役の職務を果たしていた                   と認められるため,賃金センサス平成28年第1巻第1表男子学歴計70歳の平均年収である                   3,612,500円を基礎収入として休業損害を認めるのが妥当である。

                 したがって,2,543,529円(3,612,500円÷365日×257日)を休業損                     害とすべきである。

                 尚,本件事故後は監査役の職務が遂行できないので退任となった。

 

      7 傷害慰謝料(3,787,766円

           赤い本の基準額 2,913,666円

     内訳) 入院8か月分 2,840,000円

        入院17日分    73,666円

        計      2,913,666円

           増額  30%

           合計  3,787,766円(2,913,666円×1.30)

           ※ 基準額について

                 入院日数257日を,8か月と17日の入院として計算した。17日分については,9か月の                   基準額297万円と8か月の基準額284万円の差額である13万円を30日で除した日額に                   17日を乗じた。

                (297万円―284万円)×17/30=73,666円

           ※ 増額について

                 被害者の傷害は,脳の損傷(外傷性両側硬膜下血腫,外傷性クモ膜下出血,水頭症など)をと                   もなうものであり,通常生命の危険があるものであり,かつ,実際に生命が危ぶまれる状態で                   あったことから,基準額を30%増額するのが妥当である。

 

第2 後遺障害分

1 後遺障害逸失利益(9,836,836円)

  自動車損害賠償保障法施行令別表第一第1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障

      害を残し,常に介護を要するもの」

       基礎収入     3,612,500円

労働能力喪失率  100%

就労可能年数   3年(ライプニッツ係数 2.723)

後遺障害逸失利益 9,836,838円(3,612,500円×2.723)

※ 基礎収入について

賃金センサス平成28年第1巻第1表男子学歴計70歳の平均年収である3,612,500円を基礎収入とするのが妥当である。

※ 就労可能年数について

症状固定日である平成28年6月22日時点で83歳である。平成26年男子簡易生命表によると平均余命は7.26年であり,2分の1を就労可能年数として計算すると,3年(少数点以下切捨て)となる。

(a) Hスーパー

被害者は妻に先立たれ,事故時にはS市で一人暮らしをしていた。被害者が本件事故に遭ったのは,自宅からHスーパーへと向かう途中のことであった。Hスーパーは,被害者が創業した会社であるが,長男に譲った後も,毎日午前6時半頃にHスーパーで,社員が出勤するまでの間掃除や陳列物の整理をしていた。

(b) 株式会社I土建

被害者は,Hスーパーを創業し経営していたことから経営知識・経験,財務・会計知識,労務管理知識・経験があったことから,二男が代表取締役をする株式会社I土建の監査役に就任し,監査業務を行い,株主総会・役員会へも出席していた。

 

2 後遺障害慰謝料(33,600,000円

本人  28,000,000円(自動車損害賠償保障法施行令別表第一第1級1号)

近親者  5,600,000円

合計  33,600,000円

※ 本人の後遺障害慰謝料は赤い本の基準額

※ 近親者の慰謝料について

     近親者は長男Y,二男ⅹ,長女Tの3人である。

本件事故により死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたものであるから,近親者の慰謝料としては本人分の2割相当額が妥当である。

28,000,000円×0.20=5,600,000円

 

3 将来介護費(26,195,884円

家政婦介護料金  日額11,075円

紹介手数料    日額の12% 11,075円×0.12=1,329円

介護料は日額 12,404円(11,075円+1,329円)

平均余命年数 7年(ライプニッツ係数5.786)

合計 26,195,884円(12,404円×365日×5.786)

※ 介護の必要性について

被害者は,本件事故以前は自宅マンションに一人暮らしをしており,買い物,

食事作り,入浴,掃除,ゴミの分別などは,すべて被害者一人で行っていた。

しかし,被害者は,本件事故の極めて重篤な傷害及び後遺障害により,以下のとおり介護を要する状態となった。

被害者は,独力での移動は困難であり,他人に車椅子に乗せてもらって押してもらうことを要する。また,衣服の着脱もできず,洗顔,歯磨き,入浴も他人の介助を要する。被害者は,尿意・便意がないため一日中オムツをしていなければならず,その取替えも他人の介助を要する。食事については,身体の状態が良い日はテーブルに置かれたお粥等をスプーンでゆっくりと1時間掛けて食べることができることもあるが、それ以外の日には,他人による介助を要する。被害者は,身体の調子が悪い日には,「家(事故前に住んでいたマンション)に帰るので連れて行ってくれ」,誰もいないにもかかわらず「オイ」とか「誰だ」などと話しかけることがある。

以上のとおり,被害者には,24時間の介護・介助・見守りが必要である。

なお,被害者の介護保険の介護度は,最重度の介護を必要とする要介護4(「身体状態は様々であるが,食事・排せつ衣類着脱のいずれにも介護者の全面的な介助を必要とする。尿意,便意が伝達されない。」)が認定されている。

 

4 介護用品購入費用(756,363円)

   介護用品の内容については13の介護用品販売会社㈱ト―カイの見積書の通り。

 

5 福祉自動車購入費(2,498,346円)

  ホンダ,トヨタ,ニッサン各社の福祉自動車のうち,車椅子1脚用,スロープタイプの福祉車両を条件として調査した。ホンダ,トヨタ,ニッサンの各車種の平均値から,さらに各社の平均値をとり,最終的に3社の平均値が2,498,346円となった。

 

 (介護自動車の必要性について)

被害者は後遺障害として両側硬膜下水腫により常に脳を圧迫している状態のため,定期的に樋口脳神経外科で診察することが必要である。また,本件事故以来血圧の変動が大きく血圧管理のため定期的に循環器内科での診察が必要である。さらに,本件事故後,体力・抵抗力の著しい低下により体調を崩すことが多く,その度に内科への通院が必要である。一日中何日間も自宅だけに居るとストレスが溜まり精神状態や体調が悪くなるので,お菓子屋に買い物に連れて行き被害者の好物を選んで食べさせたり,天気の良い日にはドライブに行くなどして気分転換をさせる必要がある。

このように,被害者は定期的に通院等のために移動をしなければならないが,車椅子での移動となるため,車椅子ごと車に乗れるスロープタイプの介護自動車が必要である。とくに雨の日などには,付添の家政婦だけでは被害者を車に乗せることに大変な困難を伴う状態である。

 

6 自宅新築費用(13,720,718円

新築総費用  24,380,000円

内訳)①建築費用(甲工務店)23,780,000円

②給水・排水工事(乙商会) 600,000円

比例按分割合  96/170.58

合計  13,720,718円(24,380,000円×96/170.58)

※ 自宅新築の必要性について

被害者は,本件事故以前は,5階建てマンションの1階の012室に一人で生活して住んでいた。本件事故により車椅子を使っての移動が必要となったところ,そのマンションには,玄関から部屋に入るまでに1段の段差があり,車椅子を通れるようにするためには1/15以下の勾配にする必要があるが,当マンションでは1/15以下の勾配が取れない状態である。

室内を車イスで通れるようにするためと全室バリアフリー化するためには,各ドア幅を大きくしたり廊下や間口の幅を広げたり必要がある。また,風呂,洗面所,トイレも同様に広くする必要がある。かかる改造をする場合には壁を削ると共に柱を削らねばならないので部分的な改造は困難であり部屋の全面的改造工事が必要である。設計事務所の見解では,これらの工事をするとマンション本体の強度に影響が出て,1階部分の壁が薄くなり柱も細くなってしまうことからマンションの構造が変わってしまうことになり,マンションの改造工事は他のマンション住民からも同意が得られないこと,耐震強度も低下することから改造工事は困難との判断であった。

以上の理由から自宅を新築することとなった。

※ 比例按分割合について

新築費については,被害者の本件事故前のマンションの012号室の床面積は96㎡であり,新築家屋の床面積は170.58㎡であることから,これを比例按分した。

 

7 将来治療費(2,684,785円)

Z脳神経外科   年間80,014円

W針灸院    年間384,000円

小計       年間464,014円

平均余命年数  7年(ライプニッツ係数 5.786)

合計 2,684,785円(464,014円×5.786)

※ 治療の必要性について(Z脳神経外科)

被害者は後遺障害として両側硬膜水腫がのこり,これが常に脳を圧迫しているため,定期的にZ脳神経外科病院で診察する必要がある。

平成28年9月から平成29年5月までの9か月間にかかった治療費(29,090円)と薬代(30,920円)の合計が60,010円である。これを平均すると,年間84,216円となる。

60,010円÷9×12=80,014円

※ 治療の必要性について(W針灸院)

症状固定後,E脳神経外科主治医のO医師から,身体の筋肉や関節が衰え硬直してしまわないよう,リハビリのため,週2~3回は身体の機能維持のため身体全体の筋肉・関節・両上・下肢の運動等のマッサージをするよう指示された。

そこで,被害者は,平成28年10月14日からJ市W針灸院の訪問マッサージを週2回(土曜,月曜)受け始めて,現在も継続して訪問マッサージを受けており,その費用は1回4,000円であるから,

年間384,000円となる。

(4,000円×2×4×12=384,000円)

 

8 将来雑費(763,752円)

紙おむつ    年間   72,000円

尿とりパット  年間   60,000円

  計     年間  132,000円

平均余命年数  7年(ライプニッツ係数 5.786)

合計 763,752円(132,000円×5.786)

※ 将来雑費の必要性について

被害者は,大小ともに失禁するので,常時紙おむつ及び尿とりパットが必要となった。

①紙おむつは,1日に2枚使用している。

15枚パック入り1,500円を1か月に4パック使用するため,年間で

72,000円となる。(1,500円×4×12=72,000円)

②尿とりパットは,1日6枚使用している。

18枚パック500円を1か月に10パック使用するため,年間で60,0

00円となる。(500円×10×12=60,000円)

 

第3 損害総合計

109,832,445円

以上