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新型コロナウイルスに対する法務上の問題と対策(企業・事業者向け)

1 はじめに
 新型コロナウイルス感染症は急速に拡大しており,4月7日,政府は7都道府県を対象に緊急事態宣言を発令しました。上記地域のみならず,日本全国で外出自粛や休業要請が出ており,企業・事業者も対応が求められています。
 以下においては,新型コロナウイルスの流行に伴い,企業・事業者に生ずる法的な問題点について,政府機関等の取り組みの紹介を含め検討していきます。
(本記事は,2020年4月15日現在の情報に基づき作成されています)

2 事業継続と取引先との関係
(1) 売掛金の回収・買掛金の支払に関する問題
事例:取引先が新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し,代金を支払ってくれない。
事例:当社も同様に経営が厳しくなり,取引先へ買掛金の支払いができない。
 民法上,金銭債権について不履行があったときは,仮に不可抗力があったとしても,その責任を逃れることはできないとされています(民法419条3項)。
 当初予定された支払いが難しいようであれば,改めて支払期限等について当事者間で協議する必要があります。
 なお支払いをしなければならないときは,別途資金調達の手段を考える必要があるでしょう。
 経済産業省は,新型コロナウイルスに関する経営相談窓口を開設したうえで,民間金融機関・政府系金融機関による融資支援について紹介しています。
(参考:https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf)

(2) 契約上の義務の履行に関する問題
事例:事業継続の自粛,休業などの影響から,配送が遅れたり,製品が完成しなかったりしたことで,契約通りの納品ができなくなった。
 契約上の義務を履行しないこと,できないことについて「責めに帰すべき事由(帰責事由)」がある場合,当該債務不履行について損害賠償等の責任が生じます。逆に,帰責事由がない,不可抗力等により契約上の義務を履行することができなかった場合には,損害賠償等の責任は発生しません。
 新型コロナウイルスに起因する契約義務の不履行が「不可抗力」によるものといえるかどうかは,難しい問題です。新型コロナウイルスの発生自体は,一般的には予測しがたいともいえるかもしれません。しかしケースによっては,事業経営において一定の感染症の流行を予見し,その対策をとることが,平時から求められます。それを怠って契約義務の不履行を生じたのであれば,それは不可抗力ではなく,回避できたはずの債務不履行であると評価されるおそれもあるでしょう。
 いずれにせよ,事業者としては,十分な危機管理と感染症対策が求められることになります。

(3) 商品の納品等に関する問題
事例:取引先に商品を納品しようとしたのに,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,商品を受領せず,代金も支払ってくれない。
事例:当社は下請け業者だが,親事業者から発注された商品を納品しようとしたが,受け取ってくれない。
 民法上,商品の納品を行った(履行の提供をした)にもかかわらず,相手方が受領を拒否したとしても,納品した提供者は代金の請求をすることができます。また,受領を拒まれている間の保管費用や,双方の帰責事由なく履行ができなくなった場合の責任は,受領を拒絶している相手方にあるということになります。
 また,納入者が下請け業者であり,下請け業者側に責任なく親事業者が発注済みの納品を拒絶された場合,下請法上の違反行為として処罰の対象となる可能性があります。
 新型コロナウイルスの影響を受け,納期遅れや急な発注の取消し・変更等が生じる可能性があります。こうした問題が生じた場合には,公正取引委員会にご相談ください。

(4) 事業継続に関する問題
事例:新型コロナウイルスの影響で売り上げが急速に悪化した。このままでは経営にも支障が生じるが,事業者向けの支援制度はどのようなものがあるか。
 上記にも記載した経済産業省のパンフレットに詳細が載っています。
(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf)
 新型コロナウイルスに関する経営相談窓口の設置や,民間金融機関,政府系金融機関による融資の制度が設置されております。
 また給付金としては,令和2年度の補正予算の成立を前提として,売り上げが前年同月比で50%以上減少している事業者に,最大200万円を給付する持続化給付金の制度が予定されています(4月14日現在)。
(参考:https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin.pdf)
 また,新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難となった方には猶予制度があります。同感染症の影響により,国税を一時的に納付することができない場合,税務署に申請することにより,一定の要件に該当するときは,納税の猶予や換価の猶予が認められる可能性があります。
 詳しくは,経済産業省のホームページないしはパンフレットをご覧ください。

事例:経営の悪化を受けて,事業所の閉鎖や人員整理を考えざるを得ない。
 事業所の閉鎖,縮小等に伴い,一部の従業員を休業させる場合については,当該休業が事業者の「責めに帰すべき事由」(労働基準法26条)に該当する限り,従業員に休業手当を支給しなければなりません。たとえ新型コロナウイルスによる影響があるとしても,経営上の理由から従業員を休業させることになる以上,休業手当を支給しなければならないと考えられます。
 人員整理についても同様に,あくまで使用者都合によるものとして解釈されます。特に解雇を行う際は,いわゆる整理解雇として,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性を考慮したうえで,解雇につき客観的合理的理由があるか,社会通念上相当といえるかどうかが慎重に検討されると考えられます(労働契約法16条)。
 新型コロナウイルスの影響により,雇用調整として休業や出向等をせざるを得なくなった場合は,雇用調整助成金の補助を受けることができる可能性があります。雇用調整助成金については,下記「4 新型コロナウイルスの影響に起因する雇用調整について」を参照してください。

事例:緊急事態宣言下,休業要請等の対象となったが,休業した場合に従業員へ休業手当を支払わなければならないのか
 前述のとおり,労基法26条は,「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に,休業期間中,従業員に対しその平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません。
 しかし,どのような場合に「使用者の責に帰すべき事由」がないといえるかは,ケースバイケースであり,非常に難しい問題です。
 これについて,厚生労働省作成の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の記載を引用します。

 「不可抗力による休業の場合は,使用者に休業手当の支払義務はありませんが,不可抗力による休業と言えるためには,
①その原因が事業の外部により発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たす必要があります。
 ①に該当するものとしては,例えば,今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように,事業の外部において発生した,事業運営を困難にする要因が挙げられます。
 ②に該当するには,使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたといえるか否かは,例えば,
 ・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において,これを十分に検討しているか
 ・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html)

 以上の見解からすれば,緊急事態宣言下で休業要請等を受けても,在宅勤務や他の業務への配置転換等種々の措置を検討し,なお休業を回避できないといえる場合にのみ,休業手当の支払義務がないと解釈されると思われます。
 もっとも,上記厚労省のQ&Aにおいては,「緊急事態宣言や要請・指示により事業を休止し,労働者を休業させる場合であっても,労使がよく話し合って,休業中の手当の水準,休業日や休業時間の設定等について,労働者の不利益を回避する努力をお願いします」と記載されています。
 労基法上の休業手当の要否といった法的論点以上に重要なのは,現行の政府支援策を活用しながら,感染症予防と従業員の保護を両立することにあるでしょう。
 この点,事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われる「雇用調整助成金」制度の活用も視野に入れることができると思います。同制度の詳細については,下記「4 新型コロナウイルスの影響に起因する雇用調整について」を参照してください。


3.部署内の感染対策
事例:部署内の感染対策として,どのようなことをすればよいか。対策を怠って実際に従業員に感染者を出してしまった場合,どのような責任を負うか。
 労働契約法5条は,「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする」と規定しています。この安全配慮義務は,従業員が業務を行うにおいて,事業者が従業員の生命・身体等の安全を確保すべき義務です。事業所内では,閉鎖空間で一定時間以上,他者と距離の近い場所に所在し続けることが多く,また時間外労働などが多くなれば,疲労による免疫力の低下を招きかねません。したがって事業者もまた,従業員の健康を守るため,職場環境を改善し,在宅勤務制度の導入や就業時間の短縮など,適切な感染症対策を採る必要があります。
 事業者が十分な感染症対策を採ることを怠ったことで,従業員に新型コロナウイルスの感染者を出してしまった場合には,労災として扱われるのみならず,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償義務が発生するリスクがあります。

 令和2年3月28日に策定(令和2年4月11日変更)された新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針,および厚生労働省が労使団体に要請した感染拡大防止に向けた職場における対応では,事業者,労働者が一体として,感染症対策に取り組むべきことを求めています。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためには,①密閉空間(換気の悪い密閉空間),②密集場所(多くの人が密集している),③密接場面(お互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件(いわゆる「3密」)が同時に重なる場を避けることが重要とされています。
 そして,大規模な感染拡大防止のため職場内で徹底すべき内容として,以下のような対策が有効であるとされています。

・換気を徹底すること。換気設備を適切に運転・管理するだけでなく,建物の窓が開閉可能であれば,1時間に2回程度,窓を全開にして換気を行うこと。
・電話やパソコン,デスクなどの物品や機材を複数人で共有することを可能な限り避け,こまめに消毒すること。
・手洗いを徹底すること。入手可能であれば手指消毒用アルコールを職場に備え付け,外来者や顧客・取引先等に対しても協力を要請すること。
・咳エチケットを徹底すること。
・対面での接触を避けられない場合は,2メートル以上の距離をとること。その際,マスクを着用すること。
・社員食堂等,一定時間に人が密集する可能性のある施設がある場合は,休憩時間等をずらしたり幅を持たせたりして,利用者の集中を避けること。
・時差通勤や,可能であれば公共機関を利用しない通勤方法を積極的に活用させること。
・疲労の蓄積につながるおそれがある長時間の時間外労働等を避けること。
・出勤前や出社時等に体温測定を行うなど,職場において従業員の日々の健康状態の把握に配慮すること。
・テレビ会議等を活用すること。
・在宅勤務・テレワークを活用すること。
・職場に,衛生委員会,産業医,衛生管理者等が設置・選任されている場合,こうした組織・人員を有効活用し,労働衛生の担当者に対策の検討や実施への関与を求めること。

(参考:https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_0411.pdf)
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10631.html)


4 職場で従業員に風邪症状が出たとき,陽性者が出たとき等の対応(労務管理の観点から)
(1) 従業員に感染が確認されたとき,感染が疑われる従業員が出たとき
事例:当社の職場内で新型コロナウイルスの陽性者が出た。
事例:職場内に,明らかな陽性者ではないが,風邪の症状が出ている従業員がいる。
 厚生労働省が作成した「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」に,個別の事例を想定した対応が記載されています。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html)

 感染が疑われる従業員を休業させる場合の休業手当の支払いについては,風邪症状が認められた従業員に出社を禁じ,勤務できなくなったことについて,会社に「責めに帰すべき事由」がない場合には,休業手当の支払義務はありません。
 そして,従業員を休業させることについて,会社に「責めに帰すべき事由」があるか否かについては,会社側が感染拡大の予防措置を十分にとったか否か,当該従業員の感染が合理的に疑われ,職務の継続が可能であるか否か等を考慮して判断されると思われます。
従業員に感染が合理的に疑われるか否かの基準については,以下に記載する厚生労働省が発表した「新型コロナウイルス感染症についての相談の目安」が参考になると考えられます。

① 一般の方
・労働者に風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む。高齢者や基礎疾患等のある場合は2日程度続く場合。)
・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
② 高齢者をはじめ,基礎疾患(糖尿病,心不全,呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など))がある方や透析を受けている方,免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方
・風邪の症状や37.5℃以上の発熱が2日程度続く場合
・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
③ 妊娠中の方
 重症化しやすい方(上記②の場合)と同様
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596905.pdf)

 休業手当の支払義務があるかどうかは,以上のとおり,個々の労働者について職務の継続が可能であるか否かによります。上記の基準に至らない程度の咳や発熱のあることや,感染が多数拡大している国外からの帰国者であること,緊急事態宣言の対象都市に居住していること等を理由に休業命令を出す場合は,少なくとも当該従業員は労務の提供自体はひとまず可能であったといいうるため,休業手当を支給しなければならないと判断される可能性もあります。
以上はあくまで法的な問題です。感染拡大防止のためには,感染が疑われる従業員に対しては,自宅待機をさせたうえで従業員に十分な金銭的補償を与えるか,リモートワークをさせる等の措置を講じる必要があるでしょう。ただし,自宅勤務を行う従業員にも,会社は安全配慮義務を負っているため,感染の疑いのある症状が生じた以上は,その従業員には(金銭的補償の上で)休業を求めるのが穏当だと思われます。

(2) 従業員が濃厚接触者と判断されるとき
事例:保健所の調査により従業員が濃厚接触者と判断され,自宅待機の要請を受けた。従業員は無症状だが,自宅待機等を求めるべきか。
事例:保健所からの指示等は出ていないが,感染が確認された従業員と同じ部署内の従業員に自宅待機等を求めるべきか。
 いわゆる「濃厚接触者」の定義については,国立感染症研究所が作成する「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(令和2年3月12日版)」を参照してください(https://www.mhlw.go.jp/content/000607861.pdf)。
 保健所等から自宅待機の要請が出た場合には,事業者はその指示が従わざるを得ないと考えられます(濃厚接触者と判断された場合は,保健所から14日間の健康観察が求められます)。あえて要請に反して従業員を就労させることは,安全配慮義務違反とみなされるリスクがあります。この場合,休業手当の支払いは不要と判断される可能性があります。
 保健所等からの指示がない段階で,無症状ながら濃厚接触者の可能性がある従業員を休業させる場合には,休業手当を支給すべきと判断される可能性が高いと思われます。

 いずれにせよ,厚労省は「新型コロナウイルス感染症に関連して労働者を休業させ,労働基準法の休業手当の支払いが不要である場合についても,労使の話し合いのうえ,就業規則等により休業させたことに対する手当を支払うことを定めていただくことが望ましい」としています。現状では,労使間が話し合い,以下に述べる雇用調整助成金についても考慮しつつ,休業時の補償等について検討する必要があるでしょう。


5 新型コロナウイルスの影響に起因する雇用調整について
 厚労省は,「一般的には,現状において,新型コロナウイルス感染症の拡大防止が強く求められる中で,事業主が自主的に休業し,労働者を休業させる場合については,経済上の理由により事業の縮小を余儀なくされたものとして,雇用調整助成金の助成対象となり得」るとしています。
 雇用調整助成金とは,景気の後退等,経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ,雇用調整を行わざるを得ない事業主が,労働者に対して一時的に休業,教育訓練又は出向を行い,労働者の雇用を維持した場合に,休業手当,賃金等の一部を助成するものです。
 新型コロナウイルスの流行にあたって,厚労省は雇用調整助成金制度の要件を緩和し,企業が従業員に支払った休業手当の一部の助成が容易となっています。
 雇用調整助成金についての詳しい内容は,厚生労働省のホームページをご参照ください。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html)


6 おわりに
 新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に,事業所の閉鎖や休業を含む安全配慮が強く求められています。その一方で,在宅勤務等の新しい対応を検討することもなく安易に事業を中断することも適切ではありません。事業者としては,感染症に関する情報収集に努めたうえで,適切な感染症対策を講じ,またリモートワークや時差出勤,テレビ電話会議などの新しいシステムや働き方を積極的に取り入れる必要があります。そして,既に生じている事業継続や経営上の問題に対しては,複数の機関からの支援策を受けられる可能性があることを認識する必要があるでしょう。

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